愛犬がシニア期に入り、夜中にクーンクーンと鳴き続ける「夜泣き」。その切ない声を聞くたびに、「どこか痛いのかな？」「寂しいのかな？」と心配になり、飼い主さん自身も眠れない夜を過ごしているのではないでしょうか。原因がわからない不安と、続く寝不足で心身ともに疲れてしまいますよね。

この記事では、そんなお悩みを抱える飼い主さんのために、老犬が夜泣きをする主な原因から、今日からご家庭で試せる優しい対処法、そして動物病院へ相談するタイミングまで、順を追って分かりやすく解説します。愛犬との穏やかな夜を取り戻すための、最初の一歩を一緒に踏み出しましょう。

この記事を読むと、以下のことがわかります

• 愛犬の夜泣きの裏に隠れているかもしれない5つの主な原因
• ご自宅で今日から始められる、愛犬を安心させるための具体的なケア方法
• 動物病院に相談すべきタイミングと、獣医師に的確に症状を伝えるための準備
• 飼い主さん自身の心の負担を軽くするためのヒントと、近隣への配慮

もしかして病気？老犬が夜泣きする主な5つの原因

老犬の夜泣きと聞くと、すぐに「認知症かも」と考えてしまいがちですが、原因はそれだけではありません。体の痛みや不安、環境の変化など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていることも多いのです。

まずは考えられる原因を広く知ることで、愛犬の状態を冷静に観察する手がかりになります。ここでは、夜泣きの背景にある代表的な5つの原因について見ていきましょう。原因を決めつけず、愛犬からのサインを正しく受け取ることが大切です。

1. 認知機能の低下（認知症）による混乱

犬も高齢になると、人間と同じように認知機能が低下することがあります。これは「認知機能不全症候群」とも呼ばれ、夜泣きの大きな原因の一つとされています。主な症状としては、昼夜が逆転して夜中に起きてしまったり、自分がどこにいるのか、今がいつなのかが分からなくなり、混乱や不安から鳴き続けてしまうことがあります。

また、狭い場所に入り込んで出られなくなったり、部屋の中を目的もなくウロウロと歩き回る（徘徊）といった行動が見られることも。これらは犬自身がコントロールできない脳の機能低下によるもので、決してわがままを言っているわけではありません。不安な気持ちに寄り添ってあげることが重要です。

2. 体の痛みや不快感のサイン

言葉を話せない犬にとって、鳴くことは不調を伝えるための大切なコミュニケーション手段です。特に老犬は、関節炎や歯周病、床ずれ、あるいは内臓の疾患など、体のどこかに痛みを抱えていることが少なくありません。日中は活動しているため気が紛れていても、静かな夜になると痛みを強く感じやすくなり、そのつらさから鳴いてしまうのです。

また、寝たきりの場合は同じ姿勢でいることによる体のこわばりや不快感が原因になることもあります。「最近、起き上がるのをためらう」「特定の場所を触ると嫌がる」といった他のサインがないか、日中の様子も注意深く観察してみましょう。

3. 不安や寂しさ、飼い主への要求

犬は年齢を重ねると、視力や聴力などの感覚機能が衰えてきます。今まで聞こえていた音が聞こえにくくなったり、目が見えにくくなることで、周囲の状況が把握しづらくなり、強い不安を感じやすくなります。暗くて静かな夜は、その不安がさらに増幅されることも。飼い主さんの気配が感じられない寂しさから、「そばにいてほしい」と鳴いて知らせているのかもしれません。また、単純に「お腹がすいた」「水を飲みたい」といった要求を伝えているケースも考えられます。

4. 生活環境によるストレスや不快感

私たち人間が寝苦しい夜に眠れないように、犬にとっても生活環境は睡眠の質に大きく影響します。特にシニア犬は体温調節機能が衰えてくるため、夏の暑さや冬の寒さが体にこたえやすくなります。

寝床が硬すぎて体が痛い、騒音や光が気になって落ち着けない、といったことも夜泣きの原因になり得ます。最近、部屋の模様替えをした、新しいペットを迎えたなど、生活環境に変化はなかったでしょうか。ささいなことが、デリケートな老犬にとっては大きなストレスになっている可能性があります。

5. 空腹や喉の渇き、排泄の要求

加齢に伴い、一度に食べられる量が減ったり、消化機能が低下したりすることで、夜中にお腹が空いてしまうことがあります。

また、腎機能の低下などにより喉が渇きやすくなることも。寝る前に十分な食事や水分を摂れていないと、夜中に空腹や喉の渇きを訴えて鳴くことがあります。さらに、筋力の低下や病気によってトイレを我慢できなくなり、「おしっこがしたい」と知らせるために鳴くケースも非常に多いです。

寝床の近くにトイレや水飲み場があるか、寝る前の食事の時間は適切かなど、基本的なことを見直してみましょう。

今日から試せる、老犬の夜泣きへの優しい対処法

愛犬の夜泣きの原因がなんとなく見えてきたら、次にご家庭でできる具体的な対処法を試してみましょう。大切なのは、決して叱らないこと。夜泣きは愛犬からのSOSサインです。そのサインに優しく応え、安心感を与えてあげることが問題解決への近道です。

ここでは、生活環境の改善からコミュニケーションの取り方まで、飼い主さんが今日からすぐに実践できるケアをいくつかご紹介します。一つひとつ試しながら、愛犬に合った方法を見つけていきましょう。

まずは生活環境を見直して安心できる空間作りを

夜泣き対策の第一歩は、愛犬が夜の時間を穏やかに過ごせる環境を整えることです。人間にとっては気にならないことでも、感覚がデリケートになっている老犬には大きなストレスとなっている場合があります。

特に、一日の多くの時間を過ごす寝床周りは重要です。愛犬が「ここは安全で心地よい場所だ」と感じられるような空間作りを心がけましょう。静かで、飼い主さんの気配が感じられる場所に寝床を移動するだけでも、不安が和らぐことがあります。まずは愛犬の目線に立って、部屋の中をチェックしてみましょう。

快適な寝床の作り方

老犬の体は、私たちが思う以上に負担がかかっています。寝床が硬すぎると関節や床ずれの部分が痛みますし、柔らかすぎても起き上がりにくくなります。体圧を分散してくれる高反発のシニア犬用ベッドや、体がすっぽり収まるような囲いのあるベッドなどを試してみるのがおすすめです。

また、起き上がるときに足が滑らないよう、ベッドの周りにマットを敷いてあげるのも良いでしょう。飼い主さんの匂いがついたタオルや毛布をそばに置いてあげることで、安心して眠れる子も多いです。

室温・湿度の管理と水分補給

シニア犬は体温調節が苦手になるため、室温管理は非常に重要です。夏は涼しく、冬は暖かく、犬が快適に過ごせる温度（一般的に20～25℃前後とされます）を保ちましょう。エアコンやペット用ヒーターなどを活用し、一年を通して快適な環境を維持してあげてください。

また、乾燥は呼吸器に負担をかけることもあるため、加湿器で適度な湿度を保つことも大切です。いつでも新鮮な水が飲めるように、寝床の近くに水飲み場を設置してあげることも忘れないようにしましょう。

昼夜のリズムを整える生活習慣

認知機能の低下による夜泣きの場合、昼夜のリズムが乱れていることが一因と考えられます。夜にぐっすり眠ってもらうためには、日中の過ごし方がとても重要になります。体内時計を整え、適度な疲労感を感じてもらうことで、夜の安眠へとつなげることができます。
「もう年だから」と寝てばかりにさせず、無理のない範囲で心と体に良い刺激を与えてあげましょう。規則正しい生活は、飼い主さん自身の生活リズムを整えることにも役立ちます。

日中の適度な運動と日光浴

足腰が弱っていても、短い時間でも外に出てお散歩をすることは、良い気分転換になります。歩くのが難しい場合は、カートに乗せて外の空気に触れさせてあげるだけでも効果的です。
特に午前中に太陽の光を浴びることは、体内時計をリセットし、夜の眠りを誘うホルモン「メラトニン」の分泌を促すと言われています。天気の良い日は、ぜひ意識して日光浴の時間を作ってあげてください。ただし、夏場の熱中症には十分な注意が必要です。

脳への優しい刺激で心を満たす

体だけでなく、脳に適度な刺激を与えることも大切です。おやつを隠して探させるノーズワークや、簡単なコマンド（おすわり、ふせなど）を思い出させるような遊びは、脳の活性化に役立ちます。
新しいおもちゃを与えたり、マッサージをしながら優しく話しかけたりすることも良い刺激になります。大切なのは、愛犬が楽しみながらできること。日中に満たされた気持ちで過ごすことが、夜の心の安定につながり、夜泣きの軽減をサポートしてくれるでしょう。

不安を取り除くコミュニケーションとマッサージ

感覚が衰え、不安を感じやすくなっている老犬にとって、飼い主さんとの触れ合いは何よりの安心材料です。夜泣きが始まったときに、優しく声をかけながら体を撫でてあげるだけでも、犬の気持ちは落ち着くことがあります。日頃から意識的にスキンシップの時間を増やし、「いつもそばにいるよ」というメッセージを伝えてあげましょう。

血行を促進し、体をリラックスさせるマッサージもおすすめです。背中や腰をゆっくりと撫でたり、足先を優しく揉んであげたりすることで、体の痛みの緩和も期待できます。愛犬が心地よさそうにしている場所を探しながら、優しく触れてあげてください。

サプリメントで心の健康をサポートする選択肢

生活習慣や環境の見直しと並行して、心の健康維持をサポートするサプリメントを取り入れるのも一つの方法です。例えば、脳の健康維持に役立つとされるDHA・EPA（オメガ3脂肪酸）や、穏やかな気持ちをサポートするとされる成分が含まれたサプリメントなどがあります。これらは医薬品ではないため、すぐに効果が出るわけではありませんが、継続することで心身のバランスを整える手助けになる可能性があります。かかりつけの獣医師に相談の上、愛犬の状態に合ったものを選んであげると良いでしょう。

成分の例	期待される働き	備考
DHA・EPA	脳や神経系の健康維持をサポート	青魚などに多く含まれる
MCTオイル	脳のエネルギー源として利用されやすい	ココナッツオイルなどに含まれる
テアニン	リラックスした状態をサポート	緑茶に含まれるアミノ酸の一種

動物病院へ相談するタイミングと準備すること

セルフケアを試しても夜泣きが改善しない場合や、痛みが原因と思われる場合、あるいは急に症状が悪化した場合は、ためらわずに動物病院へ相談しましょう。夜泣きの背後には、治療が必要な病気が隠れている可能性もあります。

獣医師は、飼い主さんと愛犬にとって一番の味方です。専門家の視点から原因を探り、適切なアドバイスや治療法を提案してくれます。受診する際は、事前に情報を整理しておくことで、よりスムーズで的確な診察につながります。

こんなサインが見られたらすぐに相談を

夜泣きに加えて、以下のようなサインが見られる場合は、病気の可能性も考えられるため、早めに獣医師の診察を受けることをおすすめします。

• 食欲や元気がない、ぐったりしている
• 体を触ると痛がる、怒る
• 呼吸が速い、苦しそう
• 同じ場所をぐるぐる回り続ける
• 急に立ち上がれなくなった、けいれんを起こした
• 夜泣きの声がいつもと違う、悲鳴のよう

これらの症状は、緊急を要する場合もあります。少しでも「おかしいな」と感じたら、自己判断せずに専門家を頼りましょう。

獣医師に伝えるべきこと【チェックリスト】

診察の際、獣医師に的確な情報を伝えることは、正しい診断への近道です。慌ててしまって伝え忘れることがないよう、事前にメモを準備しておくと安心です。
可能であれば、夜泣きしている様子をスマートフォンなどで動画撮影しておくと、獣医師が状況を把握するのに非常に役立ちます。

• いつから始まったか：（例：1ヶ月前から、1週間前から急に）
• どんな鳴き方か：（例：クーンクーン、キャンキャン、遠吠えのよう）
• どのくらいの時間、頻度で鳴くか：（例：夜中の2時頃から1時間ほど、一晩に何度も）
• どんな状況で鳴くか：（例：部屋が暗くなると、飼い主が寝室に行くと）
• どうすると鳴きやむか：（例：抱っこすると、声をかけると、おやつをあげると）
• 夜泣き以外の変化：（例：食欲、飲水量、おしっこの回数、歩き方など）
• 現在飲んでいる薬やサプリメント：名前や量を正確に伝えましょう。

夜泣きで使われる薬について知っておこう

診察の結果、夜泣きの原因に応じて薬が処方されることがあります。例えば、関節などの痛みが原因であれば鎮痛剤、不安が強い場合は精神を安定させるための抗不安薬、昼夜逆転が著しい場合には睡眠をサポートする薬などが考えられます。

また、認知機能の低下に対しては、その進行を緩やかにすることを目的とした薬が使われることもあります。これらの薬は、獣医師の診断と指導のもとで正しく使用することが非常に重要です。自己判断で人間用の薬を与えたり、量を調節したりすることは絶対にやめてください。副作用など、気になることがあれば必ず獣医師に相談しましょう。

飼い主さん自身の心のケアと近隣への配慮

愛犬の夜泣きが続くと、飼い主さんの心と体にも大きな負担がかかります。寝不足による疲労、鳴き声によるストレス、そして「自分のせいで…」という罪悪感。こうした気持ちを一人で抱え込む必要はありません。愛犬のケアを続けるためには、まず飼い主さん自身が健やかでいることが何よりも大切です。

また、集合住宅などでは、近隣への配慮も必要になってきます。ここでは、飼い主さんの負担を軽くする方法と、ご近所トラブルを避ける工夫についてお伝えします。

一人で抱え込まないで。飼い主さんのストレス軽減法

愛犬の介護は、決して一人で背負うものではありません。まずは、ご家族や信頼できる友人に話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。また、意識的に休息をとることも重要です。

例えば、ご家族に数時間だけ愛犬の世話を代わってもらい、仮眠をとったり、好きなことをしてリフレッシュする時間を作りましょう。かかりつけの動物病院や、老犬介護を専門とするペットシッター、一時預かりが可能な老犬ホームなどのサービスを利用するのも一つの手です。

専門家に頼ることは、決して愛情が足りないということではありません。自分を大切にすることが、結果的に愛犬へのより良いケアにつながります。

ご近所トラブルを避けるための具体的な工夫

夜中の鳴き声は、ご近所トラブルの原因になりやすい問題です。問題が大きくなる前に、できる限りの対策をしておきましょう。まずは防音対策です。窓に防音カーテンや防音シートを取り付けたり、犬の寝床を窓から離れた場所に移動させたりするだけでも効果があります。また、可能であれば、日頃からご近所の方とコミュニケーションを取り、事情を説明しておくことも有効です。「高齢の犬がいて、夜に鳴いてしまうことがあるかもしれません。ご迷惑をおかけしたら申し訳ありません」と一言伝えておくだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。誠意ある対応を心がけることが大切です。

老犬の夜泣きに関するよくあるご質問（FAQ）

夜泣きを無視するのはかわいそう？それとも癖になる？

一概にどちらが正しいとは言えません。痛いや苦しいといったSOSサインの場合は、無視することで症状を悪化させてしまう可能性があります。一方で、飼い主にかまってほしくて鳴いている「要求吠え」の場合、応え続けると癖になってしまうことも。まずは、なぜ鳴いているのか原因を探ることが大切です。体の不調や不安が原因であれば、優しく応えて安心させてあげましょう。判断に迷う場合は、獣医師に相談することをおすすめします。

夜泣きは一度始まったら治らないのでしょうか？

諦める必要はありません。原因によっては、環境の改善や適切な治療、ケアによって大きく軽減することが期待できます。特に、体の痛みや環境の不快感などが原因の場合は、その要因を取り除くことでピタッと収まることもあります。認知機能の低下が背景にある場合でも、生活リズムの調整や投薬、サプリメントなどで穏やかな状態をサポートすることは可能です。根気強く、愛犬に合ったケアを探してあげましょう。

夜泣きの治療にはどのくらいの費用がかかりますか？

費用は原因や治療法によって大きく異なります。例えば、環境改善だけで済む場合はほとんど費用はかかりません。一方、病気が原因で検査や継続的な投薬が必要な場合は、数千円から数万円の費用がかかることもあります。まずは動物病院で診察を受け、原因の特定と治療方針、そしておおよその費用について相談してみましょう。ペット保険に加入している場合は、適用範囲を確認しておくことをおすすめします。

まとめ：愛犬と穏やかな夜を取り戻すために

老犬の夜泣きは、愛犬からの様々なメッセージが込められたサインです。その声を正しく理解し、一つひとつの原因に丁寧に対処していくことが、穏やかな夜を取り戻すための鍵となります。

ご紹介した対処法を試しながら、愛犬の様子をよく観察し、変化を見つけてあげてください。そして何より大切なのは、飼い主さんが一人で抱え込まないことです。時には専門家の力を借りながら、ご自身の心と体の健康も大切にしてください。
愛犬との残された貴重な時間を、少しでも安らかに、愛情深く過ごせるよう心から願っています。

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