犬の脳腫瘍とは?症状のチェックリスト・余命・治療法の選択肢を解説
Table of Contents
- 犬の脳腫瘍とはどのような病気か
- 脳腫瘍の種類(原発性と転移性)
- 脳腫瘍にかかりやすい犬種と年齢
- 【チェックリスト】脳腫瘍が疑われる主な症状
- てんかん発作と痙攣(けいれん)
- 性格や行動の変化(旋回運動・夜鳴きなど)
- 身体機能の低下(ふらつき・麻痺・視覚障害)
- 脳腫瘍の原因と予防について
- なぜ脳腫瘍になるのか(遺伝・環境要因)
- 予防法はあるのか
- 動物病院での検査・診断の流れと費用目安
- 神経学的検査と血液検査
- 確定診断に必要なMRI・CT検査と麻酔のリスク
- 検査にかかる費用の目安
- 脳腫瘍の治療法と選択のポイント
- 積極的治療(外科手術・放射線治療・抗がん剤)
- 症状を和らげる緩和ケア(対症療法)
- 愛犬のQOL(生活の質)を最優先した治療選択
- 自宅でできるケアと飼い主様の心構え
- 発作が起きた時の対処法と記録
- 安全に過ごすための環境づくりと食事の工夫
- 飼い主様自身の心のケアと向き合い方
- 犬の脳腫瘍に関するよくある質問 (FAQ)
- 脳腫瘍は高齢犬に多く、発作や旋回運動、性格の変化などが主なサインです。
- 確定診断にはMRI検査が必要ですが、全身麻酔のリスクと費用の検討が重要です。
- 治療法は外科手術や放射線治療のほか、症状を和らげる緩和ケアも選択肢となります。
- 愛犬のQOL(生活の質)を最優先し、自宅での安全対策と心のケアを行うことが大切です。
「最近、愛犬がぼんやりしていることが増えた」「急にけいれんを起こして倒れてしまった」……。長年連れ添った愛犬にこれまでと違う異変が現れると、飼い主様は「もしかして大きな病気ではないか」と不安で胸が押しつぶされそうになるかもしれません。
特に「脳腫瘍」という言葉が頭をよぎると、恐怖を感じるのは当然のことです。しかし、まずは落ち着いて、愛犬の体に何が起きているのかを正しく理解することが、愛犬を守るための第一歩となります。
この記事では、犬の脳腫瘍の症状や検査方法、そして治療の選択肢について、専門的な用語をできるだけ噛み砕いて解説します。愛犬と飼い主様が少しでも穏やかな時間を過ごせるよう、これからの道筋を一緒に考えていきましょう。
犬の脳腫瘍とはどのような病気か

犬の脳腫瘍とは、脳の細胞や脳を包む膜などに異常な細胞の塊(腫瘍)ができる病気です。人間と同じように犬にも発生し、決して珍しい病気ではありません。脳は全身の司令塔であるため、腫瘍ができる場所や大きさによって、運動機能、感覚、行動、意識など、さまざまな部分に影響が及びます。
「腫瘍」と聞くとすぐに「がん(悪性腫瘍)」をイメージされるかもしれませんが、良性のものもあれば、悪性のものもあります。しかし、脳という限られたスペースの中に塊ができること自体が、脳を圧迫し、神経症状を引き起こす原因となります。そのため、良性であっても治療やケアが必要になるケースがほとんどです。
まずは、この病気がどのようなものなのか、基本的な種類から見ていきましょう。
脳腫瘍の種類(原発性と転移性)
脳腫瘍は、大きく分けて「原発性脳腫瘍」と「転移性脳腫瘍」の2種類に分類されます。
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原発性脳腫瘍
脳そのものや、脳を包む膜(髄膜)から発生する腫瘍です。犬でよく見られるのは、髄膜腫(ずいまくしゅ)や神経膠腫(グリオーマ)などです。これらは脳の中で発生し、徐々に大きくなって周囲を圧迫します。 -
転移性脳腫瘍(二次性)
乳腺腫瘍や血管肉腫、メラノーマなど、体の他の場所にできたがんが、血液の流れに乗って脳に転移したものです。この場合、脳だけでなく全身の状態を考慮した治療が必要になります。
脳腫瘍にかかりやすい犬種と年齢
脳腫瘍は、どの犬種でも発症する可能性がありますが、特に中高齢(7歳〜シニア期)の犬に多く見られる傾向があります。また、犬種によってなりやすい腫瘍のタイプが異なることも報告されています。
例えば、ボクサーやボストン・テリア、フレンチ・ブルドッグなどの短頭種(鼻が短い犬種)は「神経膠腫(グリオーマ)」が発生しやすいと言われています。
一方、ゴールデン・レトリーバーやミニチュア・シュナウザーなどの長頭種では「髄膜腫」の発生率が高い傾向にあります。もちろん、これらに当てはまらないからといって安心できるわけではありませんが、シニア期に入った愛犬の様子に変化がないか、日頃から気にかけてあげることが大切です。
【チェックリスト】脳腫瘍が疑われる主な症状

脳腫瘍の症状は、「これがあれば必ず脳腫瘍」と言える特定のサインがあるわけではありません。腫瘍ができた場所によって、現れる症状は千差万別です。しかし、多くの飼い主様が気づく「異変」にはいくつかの共通点があります。以下のような症状が見られた場合、脳に何らかのトラブルが起きている可能性があります。
愛犬の様子を観察し、当てはまるものがないかチェックしてみてください。
- 突然、手足をバタつかせて泡を吹くような発作を起こした
- 同じ場所をぐるぐると回り続けている(旋回運動)
- 壁や家具にぶつかるようになった
- 名前を呼んでも反応が鈍い、または性格が急に攻撃的になった
- 足元がふらつき、まっすぐ歩けない
- 首をかしげた状態が続いている(斜頸)
てんかん発作と痙攣(けいれん)
脳腫瘍の症状の中で、最も飼い主様に衝撃を与えるのが「てんかん発作」です。これまで健康だった中高齢の犬が、突然初めての発作を起こした場合、脳腫瘍が強く疑われます。
発作の様子は、全身を硬直させてガクガクと震える激しいものから、体の一部だけがピクピクと動くもの、あるいは一瞬だけ意識が飛んでボーッとするような軽いものまで様々です。特発性てんかん(原因不明のてんかん)は若い時期に発症することが多いため、シニア期に入ってからの初発作は、脳の病変を疑う重要なサインとなります。発作は脳の神経細胞が異常興奮することで起こります。
性格や行動の変化(旋回運動・夜鳴きなど)
「最近、なんだか性格が変わった気がする」というのも、見逃せないサインです。脳の前頭葉など、感情や認知を司る部分に腫瘍ができると、以下のような行動の変化が現れることがあります。
- 旋回運動: 自分の意思とは関係なく、同じ方向にぐるぐると回り続ける。
- 認知機能の低下: トイレの失敗が増える、飼い主様がわからなくなる、夜中に意味もなく鳴き続ける(夜鳴き)。
- 性格の変化: 穏やかだった子が急に怒りっぽくなる、あるいは逆に無気力になり寝てばかりいる。
これらは「認知症(認知機能不全症候群)」の症状と非常によく似ているため、見分けがつきにくいことがあります。単なる老化現象と決めつけず、獣医師に相談することが重要です。
身体機能の低下(ふらつき・麻痺・視覚障害)
脳は運動機能や感覚もコントロールしているため、腫瘍が運動神経や平衡感覚を司る部分(小脳や脳幹など)を圧迫すると、身体の動きに異常が出ます。
具体的には、酔っ払ったようにふらふらと歩く、足の甲を地面につけたまま歩こうとする(ナックリング)、片側の手足が麻痺して動かない、といった症状です。また、視神経が圧迫されると、目は綺麗なのに見えていない(物にぶつかる、おやつを目の前に出しても気づかない)という視覚障害が起こることもあります。
これらの症状は徐々に進行することもあれば、ある日突然悪化することもあります。
脳腫瘍の原因と予防について

愛犬が脳腫瘍と診断されると、「私の飼い方が悪かったのではないか」「あの時の食事が良くなかったのか」とご自身を責めてしまう飼い主様が少なくありません。しかし、脳腫瘍の原因について正しく知ることで、不必要な自責の念から解放されることもあります。
なぜ脳腫瘍になるのか(遺伝・環境要因)
現時点での獣医学では、犬の脳腫瘍の明確な原因は完全には解明されていません。しかし、最も大きな要因として考えられているのは「遺伝的素因」と「加齢」です。先ほど触れたように、特定の犬種で発生率が高いことから、遺伝的な背景が関係していることは間違いありません。
また、細胞のコピーミスは年齢とともに増えるため、長生きする犬が増えた現代において、がんや脳腫瘍は「長寿に伴う病気」とも言えます。飼い主様の食事管理やしつけが原因で脳腫瘍になるということは、基本的には考えにくいのです。
予防法はあるのか
残念ながら、脳腫瘍を確実に防ぐ予防法やワクチン、特定の食材といったものは現在のところ存在しません。遺伝や加齢が大きく関わっているため、飼い主様の努力だけで防ぐことは非常に難しいのが現実です。
できることと言えば、定期的な健康診断で愛犬の状態を把握し、少しでも異変を感じたら早期に受診することです。早期発見ができれば、治療の選択肢が増えたり、症状をコントロールして穏やかに過ごせる時間を延ばせる可能性があります。
「予防」よりも「早期発見・早期対応」が、脳腫瘍と向き合う上での鍵となります。
動物病院での検査・診断の流れと費用目安

「脳腫瘍かもしれない」と思った時、動物病院ではどのような検査が行われるのでしょうか。脳は頭蓋骨に守られているため、通常の診察や血液検査だけでは診断することができません。ここでは、診断までのステップと、気になる費用について解説します。
神経学的検査と血液検査
最初に行われるのは、問診と身体検査、そして「神経学的検査」です。獣医師がライトを目に当てて瞳孔の反応を見たり、足先の反射を確認したり、歩き方を観察したりして、脳のどの部分に異常があるかを推測します。
同時に「血液検査」も行われます。これは脳腫瘍そのものを見つけるためではなく、発作やふらつきの原因となる他の病気(低血糖、肝臓疾患、腎臓疾患、ホルモン異常など)を除外するために行われます。また、全身麻酔をかける検査に進む場合、麻酔に耐えられる体力があるかを確認するためにも必須の検査です。
確定診断に必要なMRI・CT検査と麻酔のリスク
脳腫瘍があるかどうかを確定し、その大きさや位置を正確に知るためには、「MRI検査」や「CT検査」といった高度な画像診断が必要です。
- MRI検査: 磁気を使って脳の断面を撮影します。脳の組織を詳細に映し出すことができるため、脳腫瘍の診断には最も有効な検査です。
- CT検査: 放射線を使って撮影します。骨の状態や出血、石灰化などを見るのに優れていますが、脳の詳細な診断ではMRIに劣る場合があります。
これらの検査で最も高いハードルとなるのが「全身麻酔」です。犬は検査中にじっとしていられないため、必ず全身麻酔が必要になります。高齢犬や体調が悪い犬にとって、麻酔は決してリスクゼロではありません。獣医師とよく相談し、検査のメリットがリスクを上回るかどうかを慎重に判断する必要があります。
検査にかかる費用の目安
MRIやCT検査は高度医療機器を使用するため、費用も高額になります。病院や検査内容、麻酔の種類によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
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検査項目 |
費用の目安(1回あたり) |
|---|---|
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初診・血液検査・神経学的検査 |
1万〜3万円程度 |
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MRI・CT検査(麻酔費含む) |
15万〜25万円程度 |
|
脳脊髄液検査(必要な場合) |
1万〜3万円程度 |
これらはあくまで検査だけの費用であり、その後の治療費は別途かかります。ペット保険に加入している場合は、補償の対象になるか事前に確認しておくと安心です。
脳腫瘍の治療法と選択のポイント

検査の結果、脳腫瘍と診断された場合、次に直面するのは「どのような治療を行うか」という選択です。完治を目指すのか、症状を和らげることを優先するのか。正解は一つではありません。愛犬の年齢や体力、そして飼い主様の考え方に合わせて選ぶことが大切です。
積極的治療(外科手術・放射線治療・抗がん剤)
腫瘍そのものを小さくしたり、取り除いたりして、病気の進行を抑える治療法です。
- 外科手術: 頭蓋骨を開けて腫瘍を摘出します。髄膜腫など、場所によってはきれいに取り除ける可能性がありますが、脳へのダメージや手術リスクも伴います。実施できる施設は限られています。
- 放射線治療: 放射線を当てて腫瘍細胞を死滅させたり、小さくしたりします。手術が難しい場所にある腫瘍にも有効な場合がありますが、複数回の全身麻酔が必要になることが一般的です。
- 抗がん剤(化学療法): 薬を使って腫瘍を攻撃します。しかし、脳には「血液脳関門」というバリア機能があり、多くの薬が脳まで届きにくいため、効果が限定的な場合もあります。特定の種類の腫瘍には効果が期待できる薬もあります。
症状を和らげる緩和ケア(対症療法)
腫瘍そのものを攻撃するのではなく、腫瘍によって引き起こされる辛い症状を和らげ、普段通りの生活を送れるようにサポートする治療法です。
主に使用されるのは、脳のむくみ(脳浮腫)を取るための「ステロイド剤」と、発作を抑えるための「抗てんかん薬」です。これらを内服することで、一時的に症状が劇的に改善し、元気を取り戻すことも珍しくありません。根治治療ではありませんが、愛犬の苦痛を取り除き、穏やかな時間を過ごすために非常に重要な選択肢です。
愛犬のQOL(生活の質)を最優先した治療選択
治療法を選ぶ際、最も大切にしていただきたいのが「愛犬のQOL(生活の質)」です。 「手術をすれば長生きできるかもしれないけれど、入院や痛みが伴う」「緩和ケアなら自宅で過ごせるけれど、余命は短くなるかもしれない」。どちらを選ぶにしても、飼い主様が愛犬のことを一番に想って決めたことであれば、それが正解です。
高齢で体力が落ちている場合や、病院が苦手な子の場合は、無理に積極的治療を行わず、自宅で大好きなおやつを食べてゆっくり過ごすことを選ぶ飼い主様も多くいらっしゃいます。獣医師とよく話し合い、愛犬にとって何が幸せかを基準に治療方針を決めていきましょう。
自宅でできるケアと飼い主様の心構え

脳腫瘍と闘う愛犬にとって、一番の特効薬は「安心できる自宅」と「大好きな飼い主様の笑顔」です。病院での治療だけでなく、ご自宅でのケアが愛犬の生活を支えます。
発作が起きた時の対処法と記録
自宅でてんかん発作が起きるとパニックになってしまうかもしれませんが、飼い主様が落ち着くことが大切です。
- 手を出さない: 無意識に噛んでしまうことがあるため、口元には絶対に手を近づけないでください。舌を噛む心配をしてタオルを入れる必要はありません。
- 安全確保: 家具や階段から落ちないよう、周りの物をどけるか、クッションでガードします。
- 記録する: 可能であればスマホで動画を撮影してください。発作の長さや様子は、獣医師にとって重要な情報になります。
- 見守る: 発作がおさまったら、優しく声をかけて安心させてあげましょう。
発作が5分以上続く場合や、意識が戻らないまま次の発作が起きた場合は緊急事態です。すぐに動物病院へ連絡してください。
安全に過ごすための環境づくりと食事の工夫
ふらつきや視力低下がある場合、家の中をバリアフリー化してあげましょう。
- 床材: 滑りやすいフローリングには、コルクマットやカーペットを敷き詰めて転倒を防ぎます。
- 家具の配置: ぶつかっても痛くないよう、家具の角にガードを付けたり、通り道を広く確保したりします。旋回運動がある場合は、円形のサークルを用意すると、角に挟まって動けなくなるのを防げます。
- 食事: 首を下げるのが辛い場合があるため、食器台を使って高さを出してあげると食べやすくなります。飲み込みが悪ければ、フードをふやかしたり、流動食を利用したりしてサポートしましょう。
飼い主様自身の心のケアと向き合い方
愛犬の介護は、身体的にも精神的にも飼い主様に大きな負担がかかります。「もっと早く気づいてあげれば」「私のせいで」と自分を責めないでください。愛犬は、飼い主様が悲しい顔をしているよりも、笑顔でいてくれることを望んでいるはずです。
辛い時は一人で抱え込まず、獣医師や看護師、あるいは同じ境遇の飼い主様に相談してください。飼い主様ご自身が心身ともに健康でいることが、結果として愛犬への良いケアにつながります。残された時間がどれくらいあるかは誰にもわかりませんが、その一日一日を「今日はいい日だったね」と終えられるよう、今の愛犬との時間を大切に過ごしてください。
犬の脳腫瘍に関するよくある質問 (FAQ)

脳腫瘍と診断された場合、余命はどのくらいですか?
余命は腫瘍の種類、発生場所、進行度、そして選択する治療法によって大きく異なります。無治療の場合は数ヶ月程度となることもありますが、放射線治療や手術が成功した場合や、緩和ケアで症状がうまくコントロールできた場合は、年単位で穏やかに過ごせるケースもあります。一概には言えませんので、主治医とよく相談してください。
脳腫瘍の犬は頭痛を感じているのでしょうか?
犬は言葉を話せませんが、脳圧が上がることによる頭痛や不快感を感じている可能性は高いと考えられています。頭を壁に押し付ける、元気がない、食欲が落ちるといった行動は、痛みや不快感のサインかもしれません。ステロイド剤などで脳圧を下げることで、これらの苦痛を和らげてあげることができます。
高齢犬なので手術はしたくありません。それでも病院に行くべきですか?
はい、受診をおすすめします。手術をしない=何もできない、ではありません。お薬で発作を抑えたり、脳のむくみを取ったりすることで、愛犬の苦痛を取り除き、QOL(生活の質)を維持することは十分に可能です。緩和ケアの方針を相談するためにも、一度獣医師にご相談ください。
突然死してしまうことはありますか?
脳の呼吸中枢などを圧迫する場所に腫瘍がある場合や、重積発作(発作が止まらない状態)が起きた場合、突然亡くなってしまう可能性はゼロではありません。万が一の時にどう対応するか、どこまで蘇生処置を望むかなど、あらかじめご家族で話し合っておくことも、心の準備として大切です。

