犬の認知症の薬・サプリメント|費用や副作用、自宅でできるケアまで徹底解説
Table of Contents
- 犬の認知症治療における「薬」の役割と目的
- 動物病院で処方される代表的な薬の種類と特徴
- 塩酸セレギリン:脳内の伝達物質をサポート
- 抗不安薬・睡眠導入剤:夜鳴きや不安の軽減
- 漢方薬(抑肝散など):東洋医学による穏やかなケア
- 薬を使用する際の副作用と注意点
- 薬と併用を検討したいサプリメントと食事療法
- 脳の健康維持に役立つ主な栄養素(DHA・EPAなど)
- 愛犬に合ったサプリメントの選び方
- 治療を続けるために知っておきたい費用と受診のポイント
- 薬物療法や検査にかかる費用の目安
- かかりつけ医に相談する際のチェックリスト
- 薬に頼りすぎない自宅での生活サポートと環境づくり
- 昼夜逆転を防ぐための生活リズムの調整
- 脳への刺激を与えるコミュニケーション
- 犬の認知症に関するよくある質問(FAQ)
- 犬の認知症治療薬は「完治」ではなく、進行を遅らせ症状を緩和してQOL(生活の質)を維持することが目的です。
- 主な薬には、脳内伝達物質を調整する「塩酸セレギリン」、不安や夜鳴きを抑える「抗不安薬」、穏やかに作用する「漢方薬」などがあります。
- 薬物療法だけでなく、DHA・EPAなどのサプリメントや食事療法、生活リズムの調整を組み合わせる「統合ケア」が重要です。
- 治療は長期にわたるため、費用や副作用について獣医師とよく相談し、愛犬と飼い主さんの無理のない範囲で継続することが大切です。
「最近、愛犬が夜中に鳴き止まない」「名前を呼んでも反応が薄くなった」……。長年連れ添った愛犬に認知症の症状が現れると、飼い主さんとしては「何とかしてあげたい」という焦りと、「これからどうなってしまうのだろう」という深い不安を感じることと思います。
認知症は老化現象の一つであり、残念ながら完全に元の状態に戻す特効薬はまだありません。しかし、諦める必要はありません。現在は獣医療も進歩し、お薬やサプリメントを適切に使うことで、症状を穏やかにし、進行をゆるやかにすることが可能です。
この記事では、動物病院で処方される主な薬の種類や費用、サプリメントとの付き合い方について、飼い主さんが納得して選択できるよう詳しく解説します。愛犬と穏やかな時間を少しでも長く過ごすためのヒントになれば幸いです。
犬の認知症治療における「薬」の役割と目的

犬の認知症(認知機能不全症候群)と診断された場合、多くの飼い主さんが最初に考えるのが「薬で治るのか?」という点ではないでしょうか。まず理解しておきたいのは、現在の獣医療において、犬の認知症を完全に「治癒」させる薬は存在しないということです。
では、なぜ薬を使うのでしょうか。その最大の目的は、「病気の進行スピードを遅らせること」と「今あるつらい症状を和らげること」にあります。認知症の犬は、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れたり、脳細胞がダメージを受けたりすることで、昼夜逆転や夜鳴き、徘徊といった症状を引き起こします。これらは犬自身にとってストレスであるだけでなく、介護する飼い主さんの生活をも脅かす深刻な問題です。
薬物療法によって脳の働きをサポートしたり、不安を取り除いて睡眠を促したりすることで、愛犬は心身ともに落ち着きを取り戻しやすくなります。結果として、飼い主さんの介護負担も軽減され、お互いが穏やかに暮らせる期間(QOL:生活の質)を延ばすことができるのです。治療は「完治」を目指す短距離走ではなく、「共生」を目指す長距離走です。その伴走者として、お薬が大きな助けとなります。
動物病院で処方される代表的な薬の種類と特徴
動物病院で処方される認知症の薬は、その作用や目的によっていくつかのタイプに分類されます。愛犬の症状が「ぼんやりしている」のか、「夜鳴きが激しい」のか、あるいは「攻撃的になっている」のかによって、獣医師は最適な薬を選択します。ここでは、主な薬の分類と特徴について解説します。
まず、大きく分けて以下の3つのアプローチがあります。
-
脳機能改善薬(進行抑制・意欲向上)
脳内の神経伝達物質を増やしたり、血流を良くしたりすることで、認知機能の低下を防ぎ、意欲や反応を改善することを目指す薬です。初期段階から使用することで、進行を遅らせる効果が期待されます。 -
対症療法薬(鎮静・睡眠導入・抗不安)
夜鳴きや徘徊、攻撃行動など、生活に支障が出る具体的な症状(周辺症状)を抑えるための薬です。興奮を鎮めたり、睡眠を促したりして、犬と飼い主さんの休息を確保します。 -
漢方薬・代替療法
西洋薬に比べて副作用のリスクが比較的低く、体質改善や穏やかな精神安定を目指して使用されます。 - 以下の表に、それぞれの特徴をまとめました。
|
分類 |
主な薬剤・成分 |
期待できる効果 |
適しているケース |
|---|---|---|---|
|
脳機能改善薬 |
塩酸セレギリン |
ドーパミン等の伝達物質を保護 |
無気力、反応が鈍い |
|
対症療法薬 |
トラゾドン |
不安の軽減 |
夜鳴きが激しい |
|
漢方薬 |
抑肝散(ヨクカンサン) |
神経の高ぶりを抑える |
副作用が心配 |
治療の現場では、これらを単独で使うこともあれば、症状の進行度合いに合わせて組み合わせることもあります。例えば、日中は脳を活性化させるために脳機能改善薬を使い、夜間はしっかりと眠れるように睡眠導入剤を併用するといったケースです。
また、犬の認知症治療薬として日本で正式に認可されている薬は限られています(塩酸セレギリン製剤など)。そのため、獣医師の判断と飼い主さんの同意のもと、人間の認知症治療薬や抗うつ薬などを「適応外使用(オフラベル)」として処方することも少なくありません。これは獣医療では一般的なことですが、使用する際は獣医師から十分な説明を受け、効果とリスクを納得した上で開始することが大切です。
「どの薬が一番効くか」は、個体差が非常に大きいのが認知症治療の特徴です。ある子には劇的に効いた薬が、別の子にはあまり効果がない、あるいは興奮してしまう(逆説反応)ということもあります。そのため、獣医師と相談しながら、愛犬に合う薬を見つけるまで根気強く調整していく姿勢が必要になります。
塩酸セレギリン:脳内の伝達物質をサポート
「塩酸セレギリン」は、犬の認知症治療薬として日本国内でも認可されている代表的なお薬です。脳内で情報を伝える「ドーパミン」という物質は、加齢とともに減少してしまいますが、セレギリンはこのドーパミンを分解する酵素の働きを阻害することで、脳内のドーパミン濃度を維持しようと働きます。
また、活性酸素による神経細胞へのダメージを軽減する抗酸化作用も期待されています。主に、活動性が低下して寝てばかりいる、呼びかけへの反応が鈍い、といった「意欲の低下」が見られる初期から中期の段階でよく処方されます。効果が現れるまでには数週間かかることもあるため、焦らずに継続して様子を見ることが大切です。
抗不安薬・睡眠導入剤:夜鳴きや不安の軽減
認知症が進行し、昼夜逆転や夜間の徘徊、激しい夜鳴きなどが現れると、飼い主さんの介護負担は限界に達してしまいます。こうした症状には、不安を取り除く「抗不安薬」や、睡眠を促す「睡眠導入剤」が検討されます。
代表的なものには、セロトニンの働きを調整して不安を和らげるトラゾドンや、即効性のあるベンゾジアゼピン系の薬などがあります。これらは「無理やり眠らせる」というよりも、脳の興奮を鎮めて「休息をとらせる」ために用います。ただし、ふらつきが出たり、逆に興奮してしまったりすることもあるため、少量から開始し、愛犬の状態を見ながら慎重に量を調整する必要があります。
漢方薬(抑肝散など):東洋医学による穏やかなケア
西洋薬の副作用が心配な場合や、他の薬と併用して穏やかに作用させたい場合に選ばれるのが漢方薬です。中でも「抑肝散(よくかんさん)」は、犬の認知症ケアで頻繁に使用されます。元々は小児の夜泣きや疳の虫(かんのむし)に使われていた漢方で、神経の高ぶりやイライラを鎮める効果が期待できます。
「夜になるとソワソワして落ち着かない」「理由もなく吠え続ける」といった症状に対し、心身のバランスを整える目的で処方されます。即効性は西洋薬に劣る場合もありますが、体に優しく、長期的に続けやすいのがメリットです。粉末タイプが多いため、ウェットフードに混ぜるなど与え方に工夫が必要な場合もあります。
薬を使用する際の副作用と注意点
どのお薬にも、メリットだけでなく副作用のリスクがあります。認知症の薬でよく見られる副作用には、食欲不振、嘔吐、下痢といった消化器症状や、ふらつき、鎮静(眠りすぎる)などがあります。
特に注意したいのが、一部の薬で見られる「逆説反応」です。鎮静を目的とした薬で逆に興奮して暴れてしまう現象で、これは個体差によるものが大きく、実際に飲ませてみないと分からない側面があります。投薬を開始した直後は愛犬の様子をよく観察し、変わった様子があればすぐに獣医師に連絡できるようにしておきましょう。自己判断での増量や中止は大変危険ですので、必ず指示に従ってください。
薬と併用を検討したいサプリメントと食事療法

認知症のケアは、薬だけで完結するものではありません。薬は症状を抑えるのに有効ですが、脳の健康を底上げし、体全体の調子を整えるためには、毎日の食事やサプリメントによる栄養補給が非常に重要です。これらを薬と組み合わせることで、相乗効果が期待できる場合もあります。
特に高齢犬は、消化吸収能力が落ちていることも多いため、効率よく栄養を摂取できるサプリメントは強力な味方になります。ここでは、脳の健康維持に役立つ成分と、選び方のポイントをご紹介します。
脳の健康維持に役立つ主な栄養素(DHA・EPAなど)
脳の健康維持をサポートするために、以下の栄養素が注目されています。
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オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)
青魚に多く含まれる成分です。DHAは脳の神経細胞膜を柔らかく保ち、脳の健康に欠かせない栄養を補給する働きがあります。EPAは血液の流れをサポートし、脳への酸素供給を助けます。体内で合成できないため、食事やサプリメントから摂取する必要があります。 -
抗酸化物質(ビタミンE・C、ポリフェノールなど)
加齢とともに体内に蓄積する「活性酸素」は、脳細胞を傷つける原因となります。抗酸化物質はこれを除去し、脳の酸化ストレス(サビつき)を軽減する役割を果たします。 -
中鎖脂肪酸(MCTオイル)
ブドウ糖をうまく利用できなくなった高齢犬の脳に対し、代効率的なエネルギー補給をサポートする成分として注目されています。
愛犬に合ったサプリメントの選び方
現在は多くのメーカーから認知症ケア用サプリメントが販売されており、「どれを選べばいいか分からない」という飼い主さんも多いでしょう。選ぶ際は、以下のポイントをチェックしてみてください。
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成分の含有量が明記されているか
「DHA配合」と書いてあっても、期待するメリットが得られにくい場合があります。主要成分がどれくらい入っているかを確認しましょう。 -
形状と嗜好性
毎日続けるものなので、愛犬が嫌がらずに飲めるかが重要です。錠剤、カプセル、粉末、液体、おやつタイプなどがあります。愛犬の好みに合うものを選びましょう。 -
安全性と信頼性
動物病院で取り扱われている製品や、大手メーカーの製品など、品質管理がしっかりしているものを選ぶと安心です。
また、すでに薬を服用している場合は、飲み合わせの問題がないか、必ずかかりつけの獣医師に相談してから開始するようにしてください。
治療を続けるために知っておきたい費用と受診のポイント

認知症の治療は、一度受診して終わりではなく、生涯にわたって続くものです。そのため、経済的な負担や通院の手間についても、あらかじめ見通しを立てておくことが大切です。無理のない計画を立てることが、結果として長く安定したケアにつながります。
薬物療法や検査にかかる費用の目安
費用は動物病院や処方される薬の種類、犬の体重によって大きく異なりますが、一般的な目安を知っておくことは役立ちます。
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診察費・検査費
初診時は、他の病気(脳腫瘍や内臓疾患など)を除外するために血液検査や画像診断を行うことが多く、数万円かかる場合があります。再診料は1,000円〜3,000円程度が一般的です。 -
薬代(1ヶ月あたり)
小型犬の場合、数千円〜1万円程度、中・大型犬では量が増えるため1万円〜2万円以上になることもあります。サプリメントを併用する場合は、さらに数千円が加算されます。 - ペット保険に加入している場合、認知症治療が補償対象になるプランもありますので、契約内容を確認してみましょう。
かかりつけ医に相談する際のチェックリスト
限られた診察時間の中で、愛犬の状態を正確に伝えるのは難しいものです。スムーズに相談できるよう、以下の項目をメモして持参することをおすすめします。
- 気になる行動の変化(夜鳴き、徘徊、トイレの失敗など)
- 症状が出る時間帯と頻度(例:深夜2時から4時まで鳴き続ける)
- 食欲と飲水量の変化
- 動画の撮影(実際の徘徊や夜鳴きの様子をスマホで撮っておくと、獣医師に状況が伝わりやすく、診断の助けになります)
- 現在飲ませているサプリメントや薬
薬に頼りすぎない自宅での生活サポートと環境づくり

薬は強力なツールですが、それだけで全てが解決するわけではありません。薬の効果を最大限に引き出し、愛犬の不安を和らげるためには、自宅での環境づくりや生活リズムの調整が不可欠です。飼い主さんの温かいケアが、何よりの安心材料になります。
昼夜逆転を防ぐための生活リズムの調整
認知症の犬は体内時計が狂いやすく、昼夜逆転に陥りがちです。これを防ぐ、あるいは改善するためには、「朝は起きて、夜は寝る」というリズムを体で覚えさせることが大切です。
朝起きたらカーテンを開けて日光を浴びさせましょう。日光には体内時計をリセットする効果があります。日中は無理のない範囲で起こしておき、お散歩に行ったり、外の空気に触れさせたりして刺激を与えます。ただし、足腰が弱っている場合はカートでの散歩でも十分効果があります。日中に適度な刺激と疲労感を与えることで、夜間の睡眠導入がスムーズになることが期待できます。
脳への刺激を与えるコミュニケーション
単調な生活は脳の老化を早めてしまいます。愛犬の五感を刺激するようなコミュニケーションを心がけましょう。
例えば、優しくマッサージをして触覚を刺激したり、新しいおもちゃや匂いを嗅がせて嗅覚を使わせたりするのも良い方法です。「お座り」や「お手」などの簡単なコマンドを改めて練習し、できたら大げさに褒めておやつをあげるのも、脳への良い刺激になります。できないことを叱るのではなく、できたことを褒めて、愛犬に「嬉しい」「楽しい」という感情を持たせることが、脳の活性化につながります。
犬の認知症に関するよくある質問(FAQ)
犬の認知症は薬で完治しますか?
残念ながら、現在の獣医療では認知症を回復させる薬はありません。治療の目的は、症状の進行を遅らせたり、夜鳴きや不安などの症状を緩和して、愛犬とご家族が穏やかに過ごせる時間を維持することにあります。
いつから薬を飲み始めるべきですか?
「夜鳴きがひどくなってから」ではなく、初期段階から始めるのが理想的です。「最近よく寝ている」「反応が少し鈍い」といった軽微な変化の段階で脳機能改善薬やサプリメントを開始することで、進行をより効果的に遅らせられる可能性があります。
人間用の認知症薬や睡眠薬を与えても大丈夫ですか?
絶対に自己判断で与えないでください。人間と犬では薬の代謝能力や安全な用量が全く異なります。人間用の薬が犬にとっては中毒を起こす成分を含んでいる場合もあり、命に関わる危険性があります。必ず獣医師が処方した薬を使用してください。
薬の副作用で寝てばかりになることはありますか?
抗不安薬や睡眠導入剤を使用している場合、薬が効きすぎて鎮静状態が強くなり、寝てばかりになることがあります。QOL(生活の質)を著しく下げる場合は薬の量を調整する必要がありますので、獣医師に相談してください。
愛犬が認知症と診断されると、飼い主さんは大きな不安を感じるものです。しかし、適切な薬物療法と日々のケアを組み合わせることで、症状をコントロールし、穏やかな日々を取り戻すことは十分に可能です。
一人で抱え込まず、獣医師と二人三脚で、愛犬にとって一番心地よい過ごし方を見つけてあげてくださいね。

