犬のクッシング症候群とは?症状・原因から治療法、自宅でのケアまで解説

犬のクッシング症候群とは?症状・原因から治療法、自宅でのケアまで解説

Table of Contents

  • 愛犬の「水を飲む量が増えた」「お腹がぽっこりしてきた」などの変化が、クッシング症候群のサインかもしれません。
  • この記事では、飼い主さんが気づきやすい具体的な症状から、病気の原因、動物病院での検査や治療法までを分かりやすく解説します。
  • 治療は生涯にわたることも多いですが、適切なケアと管理で愛犬の負担を減らし、穏やかな毎日をサポートできます。
  • 愛犬の気になる変化について理解を深め、獣医師に相談する際の一助となる情報をお届けします。

もしかしてクッシング症候群?飼い主さんが気づきやすい7つの主な症状

「最近、なんだか様子が違う…」愛犬の些細な変化は、病気のサインかもしれません。クッシング症候群はゆっくりと進行するため、初期症状は老化によるものと見過ごされがちです。ここに挙げる症状に複数当てはまる場合は、一度動物病院で相談してみることをおすすめします。

1. 水をたくさん飲み、おしっこの量が増える(多飲多尿)

クッシング症候群の最も代表的な症状の一つが、水を飲む量とおしっコの量が異常に増えることです。これは、過剰に分泌されたホルモン(コルチゾール)の働きで腎臓での水分再吸収がうまくいかなくなり、喉が渇きやすくなるために起こります。
以前より水入れが空になるのが早い、おしっこの回数や一回の量が増えた、夜中におしっこで起きるなどの変化が見られます。

2. 食欲が異常に増える(多食)

まるで底なしのように、常に食べ物を探している様子はありませんか?コルチゾールは食欲を増進させる作用も持っています。そのため、今まで以上に食欲が旺盛になり、ごはんの催促が増えたり、盗み食いをしたりすることがあります。
たくさん食べるのに痩せていく糖尿病とは対照的に、クッシング症候群では体重が増加する傾向が見られることも特徴です。

3. お腹がぽっこり膨らむ(腹部膨満)

手足は細いのに、お腹だけがぽっこりと垂れ下がったような体型になるのも特徴的な症状です。これは、コルチゾールの影響で腹筋が弱くなり内臓を支えきれなくなることや、肝臓が腫れて大きくなること(肝腫大)が原因で起こります。まるで妊娠しているかのように見えることもあり、飼い主さんが異変に気づくきっかけになりやすい症状です。

4. 毛が薄くなる・皮膚トラブル(左右対称の脱毛など)

体の左右対称に毛が薄くなる「対称性脱毛」は、クッシング症候群でよく見られる皮膚症状です。特に胴体部分に現れやすく、かゆみは伴わないことが多いです。
また、皮膚が薄くペラペラになり、血管が透けて見えるようになったり、些細なことで傷つきやすくなったりします。皮膚の免疫力が低下するため、皮膚炎や感染症を繰り返しやすくなることもあります。

5. 息が荒くなる(パンティング)

特に暑いわけでも、運動した後でもないのに、ハァハァと浅く速い呼吸(パンティング)をすることが増えます。これは、腹筋などの呼吸に関わる筋肉が弱くなることや、腹部膨満によって横隔膜が圧迫されることが原因とされています。愛犬がリラックスしているはずの時間帯に息が荒い状態が続く場合は、注意が必要です。

6. 元気がない・筋力の低下

以前は喜んで行っていた散歩を嫌がるようになった、ソファや段差を登れなくなった、といった活動性の低下もサインの一つです。コルチゾールは筋肉のタンパク質を分解する作用があるため、全身の筋力が低下してしまいます。
特に後ろ足から弱ることが多く、歩き方がふらついたり、立ち上がるのに時間がかかったりする様子が見られます。

7. 【要注意】症状が似ている他の病気

クッシング症候群の症状、特に「多飲多尿」は他の病気でも見られます。自己判断はせず、必ず獣医師の診断を仰ぐことが重要です。例えば、以下のような病気が考えられます。

  • 糖尿病:多飲多尿や多食といった症状が共通しますが、糖尿病では体重が減少する傾向があります。
  • 甲状腺機能低下症:元気がなくなる、脱毛するといった症状が似ていますが、食欲は低下することが多いです。
  • 腎臓病:病気が進行すると多飲多尿が見られますが、食欲不振や嘔吐などを伴うことが一般的です。

これらの病気と見分けるためにも、動物病院での詳しい検査が必要不可欠です。

犬のクッシング症候群とは?原因をわかりやすく解説

クッシング症候群は、正式には「副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)」と呼ばれる病気です。少し難しい名前ですが、体の仕組みを理解すると、なぜ様々な症状が現れるのかが見えてきます。ここでは、その原因を分かりやすく解説します。

「コルチゾール」というホルモンの過剰分泌が引き起こす病気

犬の体には、腎臓の近くに「副腎」という小さな臓器があります。副腎は、生命維持に欠かせない様々なホルモンを分泌する大切な場所です。その中の一つに「コルチゾール」というホルモンがあります。コルチゾールは、ストレスに対抗したり、血糖値や血圧を調整したり、炎症を抑えたりと、体を正常に保つために重要な役割を担っています。

しかし、何らかの原因でこのコルチゾールが過剰に分泌され続けると、体に様々な悪影響を及ぼします。この状態がクッシング症候群です。

原因は主に3種類に分けられます

コルチゾールが過剰になってしまう原因は、大きく分けて3つのタイプがあります。原因によって治療法が異なる場合があるため、どこに原因があるのかを特定することが非常に重要です。

下垂体の腫瘍(下垂体性)

最も多い原因で、全体の約80~85%を占めるとされています。脳の下にある「下垂体」という部分にできた腫瘍(多くは良性)が、「副腎を刺激するホルモン(ACTH)」を過剰に分泌します。

その結果、副腎が常に刺激され続け、コルチゾールを大量に作り出してしまうのです。小型犬に多く見られるタイプです。

副腎の腫瘍(副腎性)

副腎自体に腫瘍(良性・悪性が約半々)ができ、それが自律的にコルチゾールを過剰に分泌するタイプです。全体の約15~20%を占めます。この場合、脳からの指令とは無関係にコルチゾールが分泌され続けます。下垂体性と比べて、大型犬に発生する傾向があるとされています。

ステロイド薬の長期使用(医原性)

アレルギー性皮膚炎や関節炎、免疫介在性疾患などの治療のために、ステロイド薬(合成コルチゾール)を長期間、あるいは高用量で使用している場合に起こることがあります。外部からコルチゾールと同じ作用を持つ薬を投与し続けることで、体内のコルチゾール濃度が高い状態になるタイプです。これを医原性クッシング症候群と呼びます。

かかりやすい犬種や年齢は?

クッシング症候群は、一般的に6歳以上の中高齢犬に多く見られます。若い犬での発症は稀です。特定の犬種に発症しやすい傾向があり、特にプードル、ダックスフンド、ポメラニアン、ボストン・テリア、ビーグルなどで好発すると言われています。

もちろん、ここに挙げた以外の犬種やミックス犬でも発症する可能性は十分にありますので、年齢を重ねてきたらどんな犬でも注意が必要です。

動物病院での診断の流れ|どんな検査をするの?

愛犬にクッシング症候群が疑われる場合、動物病院では正確な診断のために段階的に検査を進めていきます。どのような検査をするのか事前に知っておくことで、飼い主さんの不安も少し和らぐかもしれません。ここでは、一般的な診断の流れをご紹介します。

ステップ1:問診と身体検査

まずは飼い主さんから、愛犬の様子について詳しくお話を聞きます。「いつから水をたくさん飲むようになったか」「食欲はどうか」「毛の状態はどうか」など、日々の変化を具体的に伝えることが重要です。

その後、獣医師が聴診や触診などで全身の状態をチェックします。お腹の張り具合や皮膚の状態、脱毛の範囲などを丁寧に確認します。

ステップ2:血液検査・尿検査

次に、血液検査と尿検査を行います。クッシング症候群の犬では、血液検査で肝臓の数値(特にALP)の上昇や、コレステロール値の上昇など、特徴的な異常が見られることが多くあります。

尿検査では、尿の濃さ(尿比重)が低いことや、尿路感染症の有無などを確認します。これらの検査は、病気の可能性を探るためのスクリーニングとして非常に重要です。

ステップ3:画像検査(超音波・レントゲンなど)

血液検査などでクッシング症候群が強く疑われた場合、次にお腹の超音波(エコー)検査やレントゲン検査を行います。この検査の目的は、副腎の大きさや形を確認することです。副腎が両方とも大きくなっていれば下垂体性、片方だけが大きくなっていたり形がいびつだったりすれば副腎腫瘍の可能性が高まります。

また、肝臓の腫れ具合なども評価できます。

ステップ4:確定診断のためのホルモン検査

最終的な確定診断のためには、ホルモンの分泌状態を調べる特殊な血液検査(ホルモン負荷試験)が必要です。代表的なものに「ACTH刺激試験」や「低用量デキサメタゾン抑制試験」があります。

これらの検査は、薬を注射する前と後で血液中のコルチゾール濃度を測定し、その反応を見ることで、クッシング症候群であるかどうか、またその原因がどこにあるのかを判断するのに役立ちます。

クッシング症候群の治療法|愛犬の負担を減らすための選択肢

クッシング症候群と診断された場合、その原因や愛犬の状態に合わせて治療法を選択します。この病気は完治が難しいことが多く、生涯にわたるコントロールが必要になるケースがほとんどです。

獣医師とよく相談しながら、愛犬にとって最善の治療法を見つけていきましょう。

内科療法:飲み薬でホルモンをコントロールするのが一般的

最も一般的な治療法は、飲み薬による内科療法です。コルチゾールの合成を抑える薬(トリロスタンなど)を毎日投与し、ホルモン量を正常範囲にコントロールすることを目指します。

この治療は、原因が下垂体性でも副腎性でも選択されます。薬の量は個々の犬の反応を見ながら慎重に調整する必要があるため、治療開始後は定期的な血液検査と診察が欠かせません。副作用のリスクもあるため、獣医師の指示をしっかり守ることが大切です。

外科手術・放射線治療:腫瘍の種類によって検討

副腎にできた腫瘍が原因の場合、腫瘍が片側性で転移の可能性が低いと判断されれば、外科手術で腫瘍を摘出することがあります。手術が成功すれば、完治が期待できる場合もあります。

一方、下垂体の腫瘍が大きい場合や、脳への影響が懸念される場合には、放射線治療が選択されることもあります。これらの治療は専門的な設備や技術が必要となるため、実施できる施設は限られます。

治療期間と費用の目安

クッシング症候群の治療は、多くの場合、生涯にわたって継続する必要があります。そのため、治療費も長期的に考えることが大切です。費用は動物病院や治療内容によって大きく異なりますが、一般的な目安として参考にしてください。

治療費の比較表

以下は、内科療法を行った場合の一般的な費用の目安です。実際の費用は、犬の体重や状態、通院頻度によって変動します。

項目

費用の目安

備考

初期診断費用

30,000円~80,000円

血液検査、超音波検査、ホルモン負荷試験など

月々のお薬代

10,000円~30,000円

犬の体重や薬の種類によって変動

定期検査費用

10,000円~25,000円

1~3ヶ月に1回程度の血液検査・診察

※上記はあくまで目安であり、実際の費用を保証するものではありません。

おうちでできるケアと食事管理のポイント

クッシング症候群の治療は、動物病院での投薬管理だけでなく、ご家庭での日々のケアも非常に重要です。飼い主さんが愛犬の様子を注意深く観察し、穏やかな生活環境を整えてあげることで、治療のサポートにつながり、愛犬の生活の質(QOL)を維持することができます。

定期的な通院とモニタリングが大切

内科療法を始めると、薬が効きすぎたり、逆に効果が不十分だったりすることがあります。そのため、獣医師の指示に従って定期的に通院し、血液検査などでホルモン値をモニタリングすることが不可欠です。

また、日々の愛犬の様子(飲水量、食欲、元気さなど)を記録しておくと、診察の際に役立ちます。飼い主さんからの情報が、最適な薬の量を決定するための重要な手がかりとなるのです。自己判断で薬の量を変更したり、投薬を中止したりすることは絶対に避けてください。

ストレスの少ない穏やかな生活環境を整える

クッシング症候群の原因となるコルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれます。そのため、過度なストレスは病状に影響を与える可能性があります。大きな物音や環境の変化、長時間の留守番などをなるべく避け、愛犬がリラックスして過ごせる静かで安心できる環境を整えてあげましょう。

適度な運動は筋力維持に役立ちますが、疲れさせすぎないよう、その日の体調に合わせて散歩の時間やコースを調整することが大切です。

食事で気をつけたいこと|与えても良いもの・避けたいもの

食事管理は、クッシング症候群の犬の健康を維持する上で重要な役割を担います。合併症のリスクを考慮し、体に負担の少ない食事を心がけることが基本です。食事内容については、必ずかかりつけの獣医師に相談の上で進めましょう。

おすすめの栄養素と食事の基本

クッシング症候群の犬の食事は、一般的に「高タンパク質・低脂肪・低炭水化物」が基本とされます。筋力の低下を防ぐために良質なタンパク質を確保しつつ、肥満や高脂血症、膵炎などのリスクを避けるために脂肪分は控えめにすることが推奨されます。

また、血糖値の急上昇を抑えるために、食物繊維が豊富で消化の穏やかな炭水化物を選ぶと良いでしょう。専用の療法食も市販されているため、獣医師に相談してみるのも一つの方法です。

手作り食やおやつを与える際の注意点

手作り食を与える場合は、栄養バランスが偏らないように注意が必要です。自己流で行うのではなく、必ず獣医師や専門家の指導のもとでレシピを決めましょう。

おやつについては、与えすぎは禁物です。特に、脂肪分や糖分が高いものは避けるべきです。ジャーキーやチーズ、甘いビスケットなどは控え、茹でたささみや野菜(ブロッコリー、キャベツなど)を少量与える程度にしましょう。どんなおやつを与える場合でも、まずは獣医師に確認することをおすすめします。

犬のクッシング症候群に関するよくあるご質問(FAQ)

 

Q1. クッシング症候群は完治しますか?寿命はどのくらいですか?

 

A1. 残念ながら、多くを占める下垂体性のクッシング症候群は、完治が難しい病気です。治療の目標は、症状をコントロールし、合併症を防ぎ、愛犬が快適な生活を送れるようにすることです。適切な治療と管理を続けることで、病気がない犬と同じくらいの寿命を全うできる子も少なくありません。大切なのは、病気と上手に付き合っていくことです。

 

Q2. 治療をしないとどうなりますか?

 

A2. 治療をしないと、過剰なコルチゾールの影響で体に様々な負担がかかり続け、症状は徐々に悪化していきます。筋力低下が進んで歩けなくなったり、皮膚の免疫力が低下して治りにくい皮膚炎になったりします。また、糖尿病、高血圧、膵炎、血栓症といった命に関わる重篤な合併症を引き起こすリスクが非常に高くなるため、早期からの治療が推奨されます。

 

Q3. クッシング症候群は予防できますか?

 

A3. 下垂体や副腎の腫瘍が原因である場合、残念ながら直接的な予防法はありません。しかし、日頃から愛犬の様子をよく観察し、多飲多尿などの初期症状に早く気づいてあげることが「早期発見・早期治療」につながり、結果的に愛犬の健康寿命を延ばすことに繋がります。また、ステロイド薬の長期使用による医原性のクッシング症候群は、獣医師の適切な管理下で投薬することでリスクを最小限に抑えることができます。

 

 

まとめ:愛犬の変化に気づいたら、まずは獣医師へ相談を

犬のクッシング症候群は、老化のサインと見間違いやすい症状から始まる、ゆっくりと進行する病気です。しかし、放置すると様々な合併症を引き起こし、愛犬の生活の質を大きく下げてしまう可能性があります。治療は長く続くことが多いですが、適切な管理を行えば、多くの症状を和らげ、穏やかな日常を取り戻すことが期待できます。「水を飲む量が増えた」「お腹が出てきた」など、この記事で紹介したような愛犬の変化に気づいたら、どうか一人で悩まず、まずはかかりつけの動物病院に相談してください。早期発見と適切な治療が、愛犬との大切な時間を守るための最も重要な一歩となります。

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