犬のヘルニアの治る確率は?症状グレード別の回復率と治療法・ケア方法

犬のヘルニアの治る確率は?症状グレード別の回復率と治療法・ケア方法

Table of Contents

  • 犬の椎間板ヘルニアは、症状の進行度(グレード)と治療開始の早さによって回復の見込みが大きく異なります。
  • 軽度(グレード1・2)であれば、内科治療(安静・投薬)で8〜9割の回復が期待できるケースが多いです。
  • 重度(グレード3〜5)や麻痺がある場合は、早期の手術が推奨され、特に発症から48時間以内の対応がカギとなります。
  • 自宅での「抱っこの仕方」や「床の滑り止め対策」など、環境を見直すことが再発予防につながります。

「愛犬が急に歩けなくなった」「背中を丸めて震えている」……そんな突然の異変に、心臓が止まるような思いをされたのではないでしょうか。椎間板ヘルニアという病名を聞くと、「もう元通りには走れないのかもしれない」と不安でいっぱいになってしまうかもしれません。でも、どうか落ち着いてください。犬の椎間板ヘルニアは、適切なタイミングで適切な治療を行えば、多くのケースで再び元気な姿を取り戻すことができる病気です。

この記事では、飼い主さんが一番知りたい「治る確率」や「症状のレベル」、そして「自宅でできるケア」について、専門的な話をわかりやすく噛み砕いて解説します。愛犬のために今できることを、一緒に確認していきましょう。

犬の椎間板ヘルニアの「治る確率」は?グレードと治療法による目安

愛犬が椎間板ヘルニアと診断されたとき、飼い主さんが最も気になるのは「本当に治るのか?」「元の生活に戻れる確率はどのくらいなのか?」という点ではないでしょうか。

結論からお伝えすると、犬の椎間板ヘルニアにおける回復の可能性は、「症状の重症度(グレード)」「選択する治療法(内科か外科か)」、そして「治療開始までのスピード」によって大きく変わります。決して「不治の病」ではありませんが、すべてのケースで100%元通りになると断言できないのも事実です。

一般的に、症状が軽い段階で適切な処置を行えば高い確率で症状の改善が見込めますが、重度の麻痺が進行している場合は、時間との勝負になります。まずは、獣医学的に分類されるグレードごとの回復率の目安を見ていきましょう。

【グレード1・2】内科治療(保存療法)での回復率

まだ自力で歩くことができ、痛みやふらつきが主症状である「グレード1」や「グレード2」の段階では、手術を行わない内科治療(保存療法)が第一選択となることが一般的です。

この段階での回復率は非常に高く、適切なケージレスト(絶対安静)と投薬治療を行うことで、約80%〜90%の犬で症状の改善が見られるといわれています。多くのワンちゃんが、痛みから解放され、再び日常生活を送れるようになります。

ただし、ここで重要なのは「徹底した安静」です。少し良くなったからといってすぐに動かしてしまうと、再発したり、症状が一気に悪化してグレードが進んでしまったりするリスクがあります。獣医師が「もう大丈夫」と判断するまでは、心を鬼にして安静を守ることが、高い回復率を維持するための絶対条件です。

【グレード3〜5】外科治療(手術)での回復率とタイミング

足が動かない、自力で排泄ができないといった「グレード3」以上の重度な状態になると、内科治療での回復率は低下し、外科治療(手術)が推奨されるケースが多くなります。

手術を選択した場合の回復率は、手術を行う「タイミング」に大きく左右されます。

  • グレード3・4: 早期に手術を行えば、約90%以上の確率で歩行機能の回復が期待できます。
  • グレード5(深部痛覚なし): 最も重篤な状態です。発症から48時間以内に手術を行えば回復率は約50〜60%と言われていますが、48時間を過ぎると回復率は数%〜数10%へと激減してしまいます。
  • このように、重症例では「いかに早く決断し、処置を行うか」が、愛犬の将来を左右する大きな分かれ道となります。

命に関わる「進行性脊髄軟化症」のリスクについて

ヘルニアの中でも特に恐ろしいのが、「進行性脊髄軟化症(しんこうせいせきずいなんかしょう)」という合併症です。これは、脊髄の壊死が脊髄全体へと急速に広がっていく病態で、グレード4や5の重度なヘルニアの犬の約5〜10%に発症すると言われています。

残念ながら、この状態に陥ると現代の獣医療でも治療法は確立されておらず、発症から数日〜1週間程度で呼吸不全に陥り、命を落としてしまう可能性が極めて高いです。手術が成功してもこの病気が発症するリスクはゼロではありません。重度のヘルニアと診断された場合は、このリスクについても獣医師としっかり話し合い、覚悟を持って治療に臨む必要があります。

痛みのサインを見逃さないで!症状の進行レベル(グレード)解説

椎間板ヘルニアは、ある日突然発症するように見えますが、実は愛犬からの小さな「痛みのサイン」が出ていることがあります。早期発見・早期治療につなげるためには、飼い主さんが症状の進行レベル(グレード)を正しく理解しておくことが大切です。

獣医学では、症状の重さに応じてグレード1から5までの5段階に分類します。数字が大きくなるほど症状は重く、緊急度が高まります。愛犬の様子がどの段階に当てはまるか、冷静に確認してみましょう。

グレード

主な症状

緊急度

1

痛みのみ(背中を丸める、動きたがらない)

要注意

2

ふらつき・軽度の麻痺(足を引きずる)

早めに受診

3

自力で歩けない(足が動かない)

緊急

4

自力で排泄できない(膀胱麻痺)

緊急

5

深部痛覚の消失(痛みを感じない)

超緊急

グレード1:背中を丸める・抱っこを嫌がる(痛みのみ)

グレード1は、神経の麻痺はまだ起きておらず、「痛み」だけが生じている状態です。しかし、犬にとっては非常に辛い痛みであることも少なくありません。

具体的なサインとしては、以下のような行動が見られます。

  • 背中を丸めてじっとしている
  • 抱っこしようとすると「キャン!」と鳴く、または嫌がる
  • ソファやベッドへの上り下りを躊躇する
  • 散歩に行きたがらない
  • 震えている

「なんとなく元気がないかな?」と見過ごされがちですが、この段階で気づいて安静にさせることができれば、重症化を防げる可能性が高まります。

グレード2:足元がふらつく・爪を擦って歩く(軽度の麻痺)

グレード2に進むと、痛みだけでなく「軽度の麻痺」が現れ始めます。神経の伝達がうまくいかなくなり、足元がおぼつかない様子が見られます。

特徴的なのは、歩くときに足の甲(爪側)を地面に擦ってしまう「ナックリング」という症状や、酔っ払ったように腰がふらつく歩き方です。歩いてはいるものの、後ろ足に力が入らず、踏ん張りがきかない状態になります。この段階になると、明らかに「歩き方がおかしい」と気づく飼い主さんが多いでしょう。まだ歩けるからと様子を見ず、すぐに動物病院へ行くべき段階です。

グレード3〜5:足が動かない・排泄ができない(重度の麻痺)

グレード3以上は、「重度の麻痺」により生活に支障が出る深刻な状態です。

  • グレード3: 後ろ足が完全に動かなくなり、自力で立ち上がったり歩いたりすることができません。前足だけで体を引きずって移動するようになります。
  • グレード4: 足だけでなく、排泄に関わる神経も麻痺します。おしっこやうんちを自力で出せなくなったり、逆に垂れ流してしまったりします。
  • グレード5: 最も危険な状態です。足の指を強くつねっても痛みを感じない「深部痛覚の消失」が起きます。これは脊髄へのダメージが極めて深刻であることを意味し、一刻を争う手術が必要となります。

なぜヘルニアになるの?なりやすい犬種と主な原因

「うちの子はまだ若いのに、どうしてヘルニアになってしまったの?」と疑問に思う飼い主さんもいるかもしれません。犬の椎間板ヘルニアには、大きく分けて「遺伝的な要因」と「環境的な要因」の2つが関係しています。

原因を知ることは、今後の再発予防や、同居犬のケアを考える上でも非常に重要です。ここでは、なぜ犬がヘルニアになりやすいのか、その背景を解説します。

ダックスフンドやトイプードルに多い遺伝的要因

犬の椎間板ヘルニアの多くは、遺伝的に椎間板が変性しやすい犬種で発症します。これらは「軟骨異栄養犬種(なんこついえいようけんしゅ)」と呼ばれ、若いうちから椎間板の中身(髄核)が硬くなりやすい特徴を持っています。

特に代表的なのがミニチュア・ダックスフンドです。胴長短足の体型は腰に負担がかかりやすく、ヘルニアの発症率が非常に高いことで知られています。その他にも、以下の犬種は注意が必要です。

  • トイ・プードル
  • ウェルシュ・コーギー
  • フレンチ・ブルドッグ
  • ビーグル
  • ペキニーズ

これらの犬種では、激しい運動をしなくても、日常の些細な動作がきっかけで突然発症することがあります(ハンセンI型)。

加齢や肥満、フローリングなどの環境要因

遺伝的な要因がない犬種でも、加齢とともに椎間板が老化し、変形することでヘルニアを発症することがあります(ハンセンII型)。これはシニア犬に多く見られ、症状がゆっくりと進行するのが特徴です。

また、生活環境も大きなリスク要因となります。

  • 肥満: 体重が重いと、それだけ背骨や椎間板にかかる負担が増大します。
  • 滑りやすい床: フローリングで足が滑ると、腰に予期せぬ力が加わり、ヘルニアの引き金になります。
  • 段差の上り下り: ソファや階段からのジャンプは、着地時に背骨へ強い衝撃を与えます。

これらは飼い主さんの工夫次第で改善できるポイントでもあります。

どのような治療を行うの?選択肢と費用の目安

愛犬の治療方針を決めるとき、治療内容はもちろんですが、費用面も現実的な悩みとして無視できません。治療法は主に「内科治療」と「外科治療」の2つに分けられ、症状のグレードや犬の年齢、持病の有無、そして飼い主さんの希望を総合して決定されます。

ここでは、それぞれの治療法の具体的な内容と、費用の相場について解説します。

痛みを和らげて回復を待つ「内科治療(保存療法)」

内科治療は、主にグレード1〜2の軽症例、または高齢や持病で麻酔のリスクが高い場合に選択されます。目的は、脊髄の炎症を抑え、自然治癒力による修復を待つことです。

主な治療内容:

  • ケージレスト(絶対安静): 最も重要な治療です。2〜4週間程度、トイレ以外は狭いケージの中で過ごさせ、背骨を動かさないようにします。
  • 投薬: ステロイド剤や非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使って、痛みと炎症を抑えます。神経の修復を助けるビタミン剤を使うこともあります。
  • レーザー治療・鍼灸: 痛みの緩和や血行促進を目的に、補助的に行われることがあります。

内科治療は体への侵襲が少ないのがメリットですが、再発のリスクは外科治療に比べてやや高くなる傾向があります。

原因を取り除く「外科治療(手術)」とリハビリ

外科治療は、グレード3以上の重症例や、内科治療で改善が見られない場合に行われます。全身麻酔をかけ、脊髄を圧迫している椎間板物質を物理的に取り除く手術(片側椎弓切除術など)が一般的です。

手術の最大のメリットは、圧迫の原因を直接取り除けるため、神経機能の回復が早く、再発率を下げられる可能性がある点です。ただし、全身麻酔のリスクや、術後の入院・リハビリが必要になる点は考慮しなければなりません。

手術後は、低下した筋力を戻し、神経の機能を回復させるためのリハビリテーションが重要になります。水中トレッドミルやマッサージ、屈伸運動などを、獣医師や理学療法士の指導のもとで行います。

手術費用の相場とペット保険の適用について

ヘルニアの治療費は、病院の設備や入院期間、地域によって異なりますが、高額になるケースが多いです。

費用の目安(一例):

  • 内科治療: 通院1回あたり数千円〜2万円程度(検査内容による)。総額で5〜10万円程度になることも。
  • 外科治療(手術): 手術費、麻酔費、入院費、MRI/CT検査費などを含めると、30万円〜50万円以上かかることが一般的です。高度医療センターなどではさらに高額になる場合もあります。

ペット保険に加入している場合、多くのプランで椎間板ヘルニアは補償対象となります(免責事項に該当しない限り)。手術費用の50%〜70%がカバーされるだけでも、経済的な負担は大きく軽減されます。万が一に備え、加入している保険の内容を確認しておきましょう。

飼い主さんが自宅でできること・再発予防のポイント

治療を終えて退院した後や、内科治療中の自宅ケアは、飼い主さんの腕の見せ所です。愛犬の腰を守り、再発を防ぐためには、日々の生活習慣を少し変えるだけで大きな効果があります。

「また痛い思いをさせたくない」。その愛情を、具体的な行動に変えていきましょう。今日からすぐに実践できるポイントをご紹介します。

腰に負担をかけない「抱っこの仕方」と「環境づくり」

間違った抱っこは、愛犬の腰に大きな負担をかけてしまいます。脇の下に手を入れてぶら下げるような「縦抱き」は絶対にNGです。

正しい抱っこの仕方:
地面と背骨が平行になるように意識しましょう。片手で胸を支え、もう片方の手でお尻をしっかり包み込むように支えて、体を密着させて持ち上げます。「水平」を保つことがポイントです。

環境づくり:

  • 床の滑り止め: フローリングは滑りやすく危険です。コルクマットやカーペット、滑り止めワックスを活用して、足が滑らないようにしましょう。
  • 段差の解消: ソファやベッドには、犬用のスロープやステップを設置し、ジャンプをさせないようにします。

安静期間の過ごし方とケージレストの重要性

獣医師から「安静にしてください」と言われた場合、それは「散歩に行かない」だけでなく、「家の中でも走らせない、飛びつかせない」ことを意味します。

特に内科治療中の「ケージレスト」は、治療の要です。愛犬が「出して!」と鳴くと心が痛むかもしれませんが、ここで出して動き回ってしまうと、治りかけた椎間板が再び悪化してしまいます。心を鬼にして、指定された期間はケージの中で過ごさせることが、愛犬を早く治すための最大の愛情です。トイレの時だけリードをつけて出し、終わったらすぐに戻すよう徹底しましょう。

肥満予防と適度な運動による筋力維持

体重管理は、最も効果的な予防薬の一つです。体重が適正範囲を超えていると、常に腰に重りを乗せているような状態になり、ヘルニアのリスクが高まります。おやつのあげすぎに注意し、適正体重を維持しましょう。

また、回復期に入って獣医師の許可が出たら、適度な運動で筋力をつけることも大切です。背骨を支える筋肉がしっかりしていれば、椎間板への負担を減らすことができます。ただし、激しいボール遊びやジャンプは避け、平坦な道をゆっくり歩く散歩から始めましょう。

犬の椎間板ヘルニアに関するよくある質問

最後に、愛犬がヘルニアになった飼い主さんからよく寄せられる質問にお答えします。不安な点は獣医師に相談するのが一番ですが、予備知識として参考にしてください。

 

Q. ヘルニアの犬にマッサージをしても大丈夫ですか?

 

A. 自己判断でのマッサージは危険です。特に痛みがある急性期に患部を触ったり揉んだりすると、炎症を悪化させたり、痛みを増強させたりする恐れがあります。マッサージを行う場合は、必ず獣医師の診断を受け、炎症が落ち着いた時期に、指導された方法で行うようにしてください。

 

 

 

Q. 手術をしないで自然治癒することはありますか?

 

A. グレード1や2の軽度なものであれば、厳密な安静(ケージレスト)と内科治療によって、症状が消失し、臨床的に「治った」状態になることは多くあります。しかし、これは飛び出した椎間板が元に戻ったわけではなく、炎症が引いて症状が出なくなった状態であることが多いです。無理をすれば再発する可能性があるため、継続的なケアが必要です。

 

 

 

Q. コルセットは着けたほうがいいですか?

 

A. コルセットは背骨を安定させ、過度な動きを制限するのに役立つ場合があります。しかし、サイズが合っていないと逆に負担になったり、皮膚トラブルの原因になったりします。また、頼りすぎると筋力が低下する懸念もあります。使用するかどうかは、愛犬の状態に合わせて獣医師と相談して決めましょう。

 

 

愛犬が椎間板ヘルニアと診断されると、目の前が真っ暗になったような気持ちになるかもしれません。しかし、ヘルニアは決して絶望的な病気ではありません。グレードに合わせた適切な治療と、飼い主さんの献身的なケアがあれば、多くのワンちゃんが再び尻尾を振って歩けるようになります。

大切なのは、異変に気づいたら「様子を見よう」とせずに、すぐに動物病院へ行くことです。そして、焦らず根気強く治療に寄り添ってあげることです。あなたの「治してあげたい」という強い思いは、きっと愛犬に伝わり、回復への大きな力になるはずです。

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