犬のてんかん発作と暮らす|正しい対処法・治療の選択肢とQOLを高めるケア

犬のてんかん発作と暮らす|正しい対処法・治療の選択肢とQOLを高めるケア

Table of Contents

  • てんかんは「治す」だけでなく、薬や環境整備で上手に「付き合う」ことが大切な病気です。
  • 発作時は「手を出さない」「時間を計る」「動画を撮る」の3つが飼い主の重要な役割です。
  • 5分以上続く「重積発作」や1日に複数回起きる「群発発作」は、命に関わるため夜間でも受診が必要です。
  • 治療のゴールは「発作ゼロ」だけではありません。愛犬のQOL(生活の質)を維持することを最優先に考えましょう。
  • 発作の記録や部屋の安全対策など、自宅でできるケアが愛犬の安心につながります。

愛犬が突然けいれんを起こし、呼びかけにも応じない姿を目の当たりにするのは、飼い主様にとって言葉にできないほどの恐怖だったことでしょう。「このまま死んでしまうのではないか」「もっと早く気づいてあげられなかったのか」と、ご自身を責めてしまっているかもしれません。

しかし、てんかんは決して珍しい病気ではなく、正しい知識と適切なケアがあれば、愛犬はこれまで通り幸せな時間を過ごすことができます。この病気と向き合う上で大切なのは、発作を「ゼロにすること」だけに固執せず、愛犬らしい穏やかな生活(QOL)を守ってあげることです。

この記事では、発作のメカニズムから緊急時の対応、そして長く続く治療生活を支えるための具体的な環境づくりまで、飼い主様が自信を持って愛犬をサポートできるための情報を詳しく解説します。

基礎知識:犬のてんかん発作のメカニズムと種類

てんかん発作は、見た目の衝撃が強いためパニックになりがちですが、まずは「敵を知る」ことが冷静な対応への第一歩です。犬のてんかんは、脳の神経回路に一時的なショートが起きるような状態を指します。

ここでは、なぜ発作が起きるのか、そしてどのような種類があるのか、医学的な基礎知識を整理して解説します。愛犬の症状がどのタイプに当てはまるかを確認しながら読み進めてみてください。

脳内で何が起きている?てんかんの仕組み

脳は普段、電気信号を使って体中に指令を出しています。しかし、何らかの原因で脳内の神経細胞が過剰に興奮し、電気信号の嵐のような状態(過剰発射)が起きることがあります。これが「てんかん発作」です。

例えるなら、整然と流れていた交通網の信号機が一斉に誤作動を起こし、大渋滞と混乱が生じている状態と言えます。この電気的な嵐が脳全体に広がるか、一部に留まるかによって、愛犬に現れる症状が異なります。一度きりの発作であれば「てんかん」とは診断されず、慢性的に繰り返す場合に「てんかん」という病名がつきます。

「全般発作」と「焦点性発作」の違いと特徴

てんかん発作は、脳のどの範囲で異常が起きているかによって、大きく「全般発作」と「焦点性発作」の2つに分類されます。それぞれの特徴を理解しておくと、獣医師への説明がスムーズになります。

種類

脳の状態

主な症状・特徴

全般発作

脳全体が興奮状態

  • 意識を失う

  • 全身が硬直する、ガクガクと痙攣する

  • 手足をバタつかせる(遊泳運動)

  • 失禁や脱糞、泡を吹く

焦点性発作
(部分発作)

脳の一部が興奮状態

  • 意識はあることが多い(呼びかけに反応する場合も)

  • 顔の一部や片足だけがピクピクする

  • 空中のハエを噛むような動作(フライバイト)

  • 大量のよだれ、不安そうな行動

焦点性発作から始まり、途中で全般発作へ移行することもあります。愛犬がどのような順序で症状を見せたかは、診断において非常に重要な情報となります。

発作の前兆と発作後の様子(ポストイスタル)

発作は突然起きるように見えますが、実は「前兆」「発作」「発作後」という一連の流れがあります。

発作が起きる数時間から数分前に、落ち着きがなくなる、飼い主様に執拗に甘える、隠れようとするといった「前兆」が見られることがあります。これを察知できれば、安全な場所へ誘導するなどの準備が可能です。

また、発作が終わった直後の状態を「発作後(ポストイスタル)」と呼びます。脳が疲労しているため、目が見えていないように歩き回る、異常な食欲を示す、ぼーっとしているといった様子が見られます。これは一時的なもので、通常は数分から数時間で元に戻りますが、回復までの時間も記録しておくと良いでしょう。

突然の発作に備える:飼い主ができる適切な緊急対応

愛犬が発作を起こしている最中、飼い主様にできることは「発作を止めること」ではありません。「発作が終わるまで安全を守ること」です。目の前で苦しむ愛犬を見るのは辛いですが、飼い主様が冷静でいることが、愛犬の命を守ることにつながります。

いざという時に体が動くよう、具体的な対応手順と、絶対にやってはいけない行動を確認しておきましょう。

慌てずに安全を確保するための3ステップ

発作が起きたら、まずは深呼吸をして、以下の3つのステップを実行してください。

  1. 安全の確保(怪我を防ぐ)
    愛犬が家具や壁にぶつかって怪我をしないよう、周りの物をどかします。動かせない場合は、クッションやタオルを愛犬と家具の間に挟んで保護してください。高い場所にいる場合は、落下しないよう床に下ろすか、体を支えます。
  2. 時間を計る(最重要)
    発作が「いつ始まり、何分続いているか」を確認します。時間の長さは、緊急性を判断する最も重要な指標です。スマホのタイマー機能を活用しましょう。
  3. 動画を撮影する(診断の助け)
    余裕があれば、発作の様子をスマホで撮影してください。全身の動きや顔の表情が映るように撮ると、獣医師が発作のタイプを診断する際の決定的な手掛かりになります。

口に手を入れるのはNG?やってはいけない行動

良かれと思ってとった行動が、かえって危険な状況を招くことがあります。特に多い誤解が「舌を噛まないように口に物を入れる」というものです。

  • 口に手や物を入れない:
    発作中の犬は無意識に顎を強く噛み締めます。飼い主様が指を噛みちぎられる大怪我を負う危険があるだけでなく、タオルなどが喉に詰まって愛犬が窒息する恐れがあります。犬が自分の舌を噛み切って死ぬことはまずありません。絶対に口には触れないでください。
  • 大声で叫んだり、揺さぶったりしない:
    名前を叫んだり体を揺すったりしても発作は止まりません。むしろ外部からの刺激が脳をさらに興奮させ、発作を長引かせる可能性があります。静かに見守りましょう。
  • 抱きしめない:
    拘束されるとパニックが悪化したり、無意識の爪や歯で飼い主様が怪我をする可能性があります。

夜間でも病院へ!「重積発作」と「群発発作」の危険サイン

多くの発作は1〜2分程度で自然に収まりますが、以下の場合は命に関わる緊急事態です。夜間であっても迷わず救急対応している動物病院へ連絡し、受診してください。

【緊急受診が必要なサイン】

  • てんかん重積状態:1回の発作が5分以上続く場合。脳に深刻なダメージが残るリスクが高まります。
  • 群発発作:発作が治まった後、意識が完全に戻らないうちに次の発作が起きる、または24時間以内に2回以上の発作が起きる場合。

これらの状態は、自宅での様子見では改善しません。直ちに獣医師による処置(抗てんかん薬の静脈注射など)が必要です。

なぜ起きる?てんかんの原因分類と確定診断までの流れ

「なぜうちの子がてんかんになってしまったの?」という疑問は、多くの飼い主様が抱くものです。てんかんの治療方針を決めるためには、その原因を突き止めることが不可欠です。

ここでは、てんかんの主な原因分類と、確定診断に至るまでに行われる検査の目的について解説します。

「特発性てんかん」と「構造性てんかん」の違い

犬のてんかんは、原因によって大きく2つに分けられます。

  • 特発性てんかん(原因不明・遺伝性):
    MRI検査や血液検査をしても脳に明らかな異常(腫瘍や炎症など)が見つからないタイプです。遺伝的な要因が関与していると考えられており、犬のてんかんの中で最も多く見られます。脳の機能的な問題であるため、「病気そのもの」というよりは「体質」に近い側面もあります。
  • 構造性てんかん(脳の病変):
    脳腫瘍、脳炎、水頭症、過去の外傷など、脳に物理的な異常があることで引き起こされるてんかんです。この場合、てんかん発作はあくまで「症状の一つ」であり、大元の病気の治療が必要になります。

てんかんを発症しやすい犬種と年齢傾向

発症する年齢や犬種は、原因を推測する一つの材料になります。

特発性てんかんは、一般的に生後6ヶ月〜6歳の間に初めて発作が起きることが多いとされています。好発犬種としては、以下の犬種が挙げられます。

  • ビーグル
  • ボーダー・コリー
  • ゴールデン・レトリーバー
  • ダックスフンド
  • トイ・プードル
  • チワワ

一方、1歳未満の極めて若い時期や、7歳以上のシニア期になって初めて発作が起きた場合は、脳奇形や脳腫瘍などの構造性てんかんの可能性をより慎重に疑う必要があります。

MRIや血液検査など診断に必要な検査と目的

てんかんの診断は、「他の病気ではないこと」を確認する除外診断が基本となります。

  • 血液検査:
    低血糖、肝臓疾患、腎臓疾患、中毒など、脳以外の原因(反応性発作)でけいれんが起きていないかを確認します。
  • MRI検査・脳脊髄液検査:
    全身麻酔が必要になりますが、脳の構造を詳細に見ることができる唯一の方法です。脳腫瘍や脳炎の有無を確認し、「構造性てんかん」か「特発性てんかん」かを確定させるために行われます。

「麻酔が心配」という飼い主様もいらっしゃいますが、原因が脳腫瘍や脳炎だった場合、抗てんかん薬だけでは治療が遅れてしまうリスクがあります。獣医師とよく相談し、検査のメリットとリスクを理解した上で判断しましょう。

「治す」ではなく「付き合う」:治療の目標と費用の目安

てんかんと診断された時、まず知っておいていただきたいのは、治療のゴールは必ずしも「発作を完全にゼロにして、薬を飲まなくて良い状態にする(完治)」ことではない、という点です。

多くのてんかん治療は、長期戦になります。ここでは、現実的な治療の目標と、飼い主様が気になる費用や保険についてお話しします。

抗てんかん薬による発作コントロールと副作用の管理

てんかん治療の基本は、抗てんかん薬の投薬です。治療の主な目標は以下の2点です。

  1. 発作の頻度を減らし、症状を軽くする(例:月1回の発作を3ヶ月に1回にする)。
  2. 発作による脳へのダメージや、発作後の不調を最小限に抑え、愛犬のQOL(生活の質)を維持する。

お薬(フェノバルビタール、ゾニサミド、レベチラセタムなど)は、毎日決まった時間に飲ませる必要があります。飲み始めには、ふらつきや眠気、多飲多尿といった副作用が出ることがありますが、体が慣れると落ち着くことも多いです。定期的な血液検査で薬の血中濃度や肝臓への負担をチェックしながら、その子に合った量と種類を調整していきます。

「発作が起きないから」と自己判断で薬を止めるのは非常に危険です。急な断薬は、重積発作などのリバウンドを引き起こす恐れがあります。

治療費の目安とペット保険の活用について

てんかんは生涯にわたる治療が必要になることが多いため、経済的な見通しを立てることも大切です。

費用は犬の体重や薬の種類、量によって大きく異なりますが、一般的に毎月の薬代と定期検査代がかかります。
※以下はあくまで目安であり、動物病院によって異なります。

  • 毎月の薬代:数千円〜1万円程度(大型犬や多剤併用の場合は高くなる傾向)
  • 定期的な血液検査:数ヶ月に1回、5千円〜1万円程度

ペット保険に加入している場合、てんかんは補償対象になることが多いですが、契約内容や発症時期(加入前か後か)によって異なります。診断がついた時点で、保険会社に確認してみることをおすすめします。長期的な負担を軽減する大きな助けになります。

治療方針に迷ったら:セカンドオピニオンの検討時期

「薬を飲んでいるのに発作が減らない」「副作用が強すぎて愛犬が辛そう」といった悩みは、多くの飼い主様が経験します。獣医療も日々進歩しており、新しい薬や治療法も登場しています。

現在の治療方針に不安がある場合は、セカンドオピニオンを検討するのも一つの選択肢です。特に、神経病の専門医がいる病院では、より詳細な検査や薬の調整が可能な場合があります。かかりつけの先生に失礼になるのではと心配されるかもしれませんが、愛犬にとって最善の方法を探すことは飼い主様の権利であり、愛情です。これまでの検査データや経過記録を持参すると、スムーズに相談できます。

愛犬のQOL(生活の質)を守る:毎日のケアと環境づくり

薬による治療と同じくらい大切なのが、日々の生活環境のケアです。発作への不安を抱えながらも、愛犬と飼い主様が少しでもリラックスして過ごせるよう、具体的な工夫をご紹介します。

獣医師への報告に役立つ「発作記録」と動画・アプリの活用

正確な記録は、獣医師にとって「もう一つの目」となります。記憶に頼らず、記録に残す習慣をつけましょう。

  • 記録すべき項目:日時、発作の持続時間、どんな症状だったか、発作前の様子、発作後の回復時間、その日の天候や気圧など。
  • ツールの活用:手書きのノートも良いですが、てんかん管理専用のスマホアプリを活用すると便利です。動画やメモを時系列で管理でき、グラフ化してくれるものもあります。

診察時にこれらの記録を見せることで、薬の効果判定や増量のタイミングをより的確に判断できるようになります。

ストレスを軽減する部屋の環境と留守番時の見守り対策

発作はいつ起きるかわかりません。留守番中や夜間に発作が起きても、怪我を最小限に抑える部屋づくりが安心につながります。

  • 床材の工夫:フローリングは滑りやすく、発作時に踏ん張れないため、ジョイントマットや滑り止め効果のあるカーペットを敷きましょう。転倒時の衝撃吸収にもなります。
  • 家具の配置:家具の角にクッションガードを付ける、サークルの周りに物を置かないなど、ぶつかった時の対策をします。
  • 見守りカメラの導入:外出中の様子を確認できるペットカメラは、てんかんを持つ犬の飼い主様にとって必須アイテムと言えます。録画機能付きなら、留守中に発作があったかどうかの確認も可能です。

食事の工夫とサプリメントによる健康サポート

食事やサプリメントは治療の補助的な役割ですが、脳の健康維持に役立つ可能性があります。

近年、中鎖脂肪酸(MCTオイル)を含む食事が、てんかん発作の管理に役立つという研究報告があります。脳のエネルギー源としてブドウ糖の代わりにケトン体を利用させることで、脳の興奮を抑える効果が期待されています。 また、CBDオイルなどのサプリメントも注目されていますが、薬との飲み合わせの問題もあります。自己判断で与える前に、必ずかかりつけの獣医師に相談してください。

犬のてんかん発作に関するよくある質問

てんかん発作で犬が死んでしまうことはありますか?

通常、1〜2分で収まる単発の発作で直接死に至ることは稀です。しかし、発作が止まらない「重積発作」や、短時間に繰り返す「群発発作」は、脳へのダメージや多臓器不全を引き起こし、命に関わる危険性があります。こうした場合は直ちに動物病院での処置が必要です。

てんかんの薬は一生飲み続けなければなりませんか?

多くのケースで、生涯にわたる投薬が必要です。ただし、長期間発作が起きていない場合、獣医師の慎重な判断のもとで薬を減量できることもあります。自己判断での中断は再発のリスクが高いため、絶対に避けてください。

発作が起きやすいタイミングやきっかけはありますか?

個体差がありますが、気圧の急激な変化(台風など)、強いストレス、興奮、睡眠不足などが引き金になることがあります。愛犬の発作記録をつけることで、その子特有の傾向が見えてくることもあります。

てんかんを持つ犬の寿命は短いのでしょうか?

適切な治療と管理が行われていれば、てんかんを持たない犬と同じように天寿を全うできる子もたくさんいます。発作のコントロール状況や基礎疾患の有無によりますが、病気と上手に付き合いながら長生きを目指すことは十分に可能です。

まとめ:正しい知識と愛情で、愛犬らしい毎日を支える

愛犬にてんかんの診断が下ると、先の見えない不安に押しつぶされそうになるかもしれません。しかし、てんかんは決して「絶望的な病気」ではありません。適切な治療と、飼い主様の温かいサポートがあれば、発作をコントロールしながら、お散歩を楽しみ、美味しくご飯を食べ、愛犬らしく幸せに暮らすことができます。

大切なのは、飼い主様だけで抱え込まないことです。獣医師とよく話し合い、時にはセカンドオピニオンや便利なツール、家族の協力を頼ってください。「発作をゼロにする」ことだけにとらわれず、「今日一日を穏やかに過ごせたこと」を喜びながら、焦らずゆっくりと愛犬との歩みを進めていきましょう。

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